リスペクト

全国高校サッカー選手権大阪大会決勝。4―0で前回覇者の履正社を破った東海大大阪仰星のFW水永直太朗(3年)は試合終了の瞬間、表情ひとつ変えなかった。それだけでなく真っ先に履正社の選手の元へ歩み寄ると、一人一人と握手や抱擁を交わし健闘を称え合った。 最終学年の大一番。ましてやハットトリックを達成して独り舞台を演じたとなれば、至上の喜びは想像に難くない。ところが主将も務める水永はきっぱりとこう言った。「喜ぶっていうのも大事だと思いますけど、相手の履正社さんがいるからこそ、この試合が行われている。感謝の気持ちを込めて履正社さんの選手には“ありがとう”という気持ちを伝えました。そういう気持ちの方が大きかったです」 優勝=大喜び、という固定観念を筆者も数年前までは持っていたが、有名なところでは高校野球において、21年夏の甲子園で優勝した智弁和歌山も、マウンドに集まって指を突き立てることをせず、静かに喜んだ。翌22年夏の奈良大会決勝で大勝した天理も、相手の生駒がコロナ禍に見舞われた状況で大勝したが、同様だった。 共通して根底にあるのは、相手に対する深い敬意を示しているということ。特に高校生のスポーツにおいてあまり見られなかった現象は、新たな価値観として称賛に値する。ただ、大喜びしたからといって、相手に対する敬意を欠いているかといえば、決してそんなことはない。素直な感情の発露は、これはこれですがすがしい。 これからますます、価値観や考え方は多様化されていく。想像もつかない「喜び方」が他にもあるかもしれない。それぞれを尊重し、温かい目で見守れる、そんな社会であってほしいと願う。